Trinity Tempo -トリニティテンポ- ストーリー



 日は流れ、あっという間に学内選抜大会当日である。
 今年の参加チーム数は約20チーム。
 ダンスの強い学校としては少ないのかもしれないが、そもそもまず獅子王高校には全国からクイーンを目指してダンスの上手い子が集まってくるのだ。だが少数精鋭をモットーとする獅子王高校の門は狭く、その門を突破するのは簡単ではない、そんな狭き門を突破した20チームなのだ。
 ちなみに、学校によって学内選抜大会のルールや形式は異なるらしいのだが、獅子王高校のそれはシンプルなトーナメントだ。
 とは言え、約20チームでトーナメントをしていては1日では終わらないので、まずは予選と言う形で各チームが審査員の前でダンスを披露する。
 そこで高得点を出した8チームが本選であるトーナメントに出場できる、と言う流れになっている。
 また、獅子王高校は実力主義を標榜している為、アタシ達3人が前年度の蒼牙と言えど、シードなんてものは存在しない。当然予選からスタートする。

「……アリサ、眠い」
「退屈なのは分かるけどさ。アリサ、気抜きすぎじゃない?」
「理央奈……。ネイルをしながら言っても説得力に欠けるぞ」
「う」

 予選をトップで通過したアタシ達3人は、本選出場チームの控え室にいた。
 学内選抜大会を1日で行う関係上、予選終了後の本選準備にも時間が掛かるが、もう間も無く本選が始まるはずだ。

「だってさー、マジで待ち時間長いんだもん。ずっと集中してろって言う方が無理だって。なら、今のうちにネイルをバッチリ決めといた方が賢い、みたいな?」
「まったく。……本番までには切り替えるんだぞ」

 本選の準備に時間が掛かる理由は簡単で、本選には一般のお客さんが見に来るのだ。
 学内選抜大会でここまでするのも、それができるのも獅子王高校だけである。
 それだけ、毎年蒼牙がどのチームになるのか注目されていると言う事だろう。

「りょーかい。アリサも大丈夫だよね?」
「…………」
「ホントに寝ない!」
「……ん?」

 アリサが起きたのとほぼ同時に、本選開始のアナウンスが流れる。
 阪井先生も見に来ているであろう、11代目の蒼牙を決める大会もいよいよ本番だ。
 アナウンスを聞いている内に、アリサの顔も引き締まってきた。この辺は流石である。

「よし、行くぞ」

 大河がアタシとアリサに声を掛ける。
 いつもステージに上がる前は、必ず大河が声を掛けてくれる。
 アタシ達は胸を張って本選のステージに上がった。
 ……アタシは、緊張してたけどさ。

***

 ――そして、あっさりと学内選抜大会は幕を閉じた。
 大方の予想通りといえばそこまでだが、昨年度の蒼牙――虎谷大河、鷹橋理央奈、鮫坂アリサ――の圧勝だった。
 晴れて、彼女たちは<11代目蒼牙>となったのだ。
 その様子を審査席後ろの関係者席で、三神皇は33回拍手をしながらつまらなそうに見つめていた。
 横に座る獅子王高校理事長、三神御門に目を遣れば、彼は満足そうに頷いている。
 皇は表情を普段の柔和なものに変えると、父に声を掛けた。

「おめでとうございます、理事長。いやはや、流石は理事長が期待された生徒たちです。他のチームには申し訳ないですが、格が違いましたねぇ。いや~素晴らしい!」
「ふん……」

 不機嫌そうに鼻を鳴らすのと同時に御門は立ち上がった。

「おや、どちらへ?新たな蒼牙に声を掛けていかないのですか?」
「彼女たちの事は阪井に一任している。それよりも11代目蒼牙が決まった事を世間へ喧伝せねば」
「では、私もお手伝い致します」
「要らぬ。貴様は貴様のやるべき事をしておけ」
「そうですか。では、お疲れ様でした」

 対する返事もないまま、御門は会場を後にした。
 皇が再びステージに目を遣ると、リーダーの虎谷大河が校内新聞とやらのインタビューを受けている。
 聞いていると、どうやらこれが最後の質問のようだ。なんとなく質問内容を呟く。

「11代目蒼牙としての抱負、ねえ」

 折角だし、このインタビューを聞いてから学校を発つとしよう。
 そう思い、皇はマイクからの声に耳を傾ける。

『……今年はこれまでにない新しい事に挑戦できると感じています。来る大会で優勝し、最高のパフォーマンスとはこういうものだ!と、胸を張って言える様、精進していきたいと思います』

 会場中から大きな拍手がステージ上に送られる。
 皇は拍手が静かになったタイミングで出口へ歩き始めた。

「おや?」

 その途中、皇は腕を組みながらステージを見ている女性とすれ違った。
 資料で見たある人物を思い出し、皇は確信を持って彼女に話し掛けた。

「失礼。阪井龍子さんでお間違いないでしょうか?」
「そうですが、どちら様?」
「申し遅れました。私、三神ホールディングス社長の三神皇と申します。以後、お見知りおきを」
「三神……。って事はあなたが、理事長の?」
「ええ。息子です。この度は11代目蒼牙のトレーナーを快く引き受けて頂きありがとうございます。父に代わり、御礼申し上げます。……それで、伝説のトップスターである阪井さんから見て、彼女たちはいかがですか?」
「伝説だなんてやめて頂戴。そうね……。ハッキリ言って高校生であの子たちに敵う相手がいるとは思えないわ」
「ほうほう。それはそれは」
「けど、それだけレベルが高いのに未熟な点があるのよ。だからこそ、それをあの子たちが乗り越えた時、最終的にどこまで伸びるのか、私ですら想像がつかない。理事長が期待するのも分かるわ。あなたも――」

 そうなんじゃないの?と、龍子はそう言いかけた。
 しかし、言葉が出なかった。
 思わず口をつぐむ程、目の前にいる三神皇から不気味なものを彼女は感じた。

「へぇ……。そうですか、これは益々楽しみですねぇ……。ふふふ」
「……あなた、なにを考えているの?」
「おや?私は蒼牙の更なる成長を楽しみにしているだけですよ。あなたがトレーナーについてくれる事で、蒼牙の勝利はより磐石なものとなるでしょう。……おおっと、いけない!打ち合わせの時間に遅れてしまう。申し訳ありませんが、本日はこれにて失礼させて頂きますね。それでは」

 恭しく頭を下げそう言うと、皇は一度も振り返る事なく出口に消えた。
 龍子はしばらくその出口から目が離せなかった。

「阪井龍子……。父さんよりも余程鋭いですね。クックック。面白くなってきましたねぇ……」

 学校を後にした皇は1人呟く。
 彼の真意を知るものは誰もいない。


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