Trinity Tempo -トリニティテンポ- ストーリー



 卒業式からあっという間に時は流れ、今日は新入生オリエンテーションの一環として行われる歓迎会の日である。
 歓迎会と言っても、聖シュテルン女学院は初等部からの一貫校のため、高等部からの新入生はさほど多くない。
 その為、例年であれば入学式に対して上級生の関心は決して高くないと聞いていたのだが、今年に限っては違うようである。
 上級生、更に言うのであればダンスをしている生徒にとって、今年の新入生に看過できない存在がいたからである。

――九条院惺麗。

 世界的に有名な名門、九条院家の長女にして昨年行われたヨーロッパの社交ダンス大会で優勝した実績を持つ彼女が、聖シュテルン女学院の高等部に入学すると言うニュースはあっという間に校内に知れ渡った。
 多くのチームはなんとしても彼女をチームに迎えようと躍起になっていた。勿論私だって彼女が自分のチームに入ってくれればこんなに頼もしい事はない。念願のトリニティカップへの出場も現実味を帯びてくるはずだ。
 偶然、私の場所からは彼女の姿をよく見ることが出来たので、改めて彼女に目をやる。
 整った顔立ちに目を見張るブロンドヘアー。明らかに高そうな手袋とカチューシャを身に着けた彼女は、背筋をピンと伸ばし綺麗に立っていた。
 彼女が、九条院惺麗。想像以上に綺麗な人だと思った。う~ん、倍率高そう。
 思わず弱気になってしまう。
 他のチームを差し置いて、彼女をチームに引き入れられるイメージが全く浮かばない。
 私がどうしたものかと考えている間にも入学式はつつがなく進行していく。
 次のプログラムは新入生代表挨拶。壇上に上がるのは……

――あれ?

 壇上に上がったのは九条院惺麗ではなかった。
 ダンスの腕前に限らず、九条院惺麗はあらゆる事に秀でていると聞いていたので、てっきり彼女が新入生代表だと思っていたのだが……
 思わず彼女に目をやると、悔しそうに頬を膨らませていた。
 入学試験でなにか失敗したのだろうか。
 結局、入学式はほとんど九条院惺麗の観察をしているだけで終わってしまった。
 彼女をチームに迎えるための具体的なアイディアは一向に浮かばなかった。


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