Trinity Tempo -トリニティテンポ- ストーリー



 普段、真面目に授業や部活動に取り組む生徒達にとって
 数少ないハメを外す事が出来るイベント――文化祭。
 花護宮高等学校の代表的な行事の1つである。

 校内全部を使用してクラスの出店や文化部の発表をする2日間の最終日。
 桜映、すみれ、香蓮の3人は楽しそうに体育館を目指していた。
 午後より行われる文化祭の目玉イベント、全校生徒自由参加のビンゴ大会に参加するためだ。

「ビンゴ大会楽しみだね!」
「素敵な景品あると良いねぇ」
「ついたらすぐに始まりそう。ちょっと急ぎましょうか」
「「うん!」」

 初めての花護宮高等学校文化祭に少なからず浮かれつつ、3人揃って小走りで体育館の中に向かった。

***

 体育館に入ると既に沢山の生徒がビンゴカードを持ち、開始を待ちながら雑談をしていた。桜映は早速ビンゴ大会の雰囲気を楽しみたいというように忙しなく周りを見まわし、カードの受け渡し場所を探し始めた。

「いっぱいいるね!3人全員ビンゴ出来るといいなー……」
「あはは、さえちー張り切ってるね!……ねぇ、すみれちゃん。ビンゴ用のカードって、どこで受け取れるのかな?」

 桜映がキョロキョロしながら傍を離れ、挙げ句の果てに迷子になるのが目に見えているので、香蓮は桜映の手を繋いで抑止しつつ、文化祭パンフレットを持つすみれに問いかける。

「えっと、受け付けは……体育館の前の方みたいね。ステージ付近に腕章を付けた生徒会の人がいて、カードを受け取って名簿にチェックしてもらったら参加受付完了だそうよ」

 すみれは手の中にあるパンフレットに軽く目線を落としたままステージの右端の方を指差した。話を聞いていた桜映と香蓮は指差す先を目で追うと、丁度ステージ付近に目線が行った時、桜映が急にキラキラと目を輝かせ始めた。

「わぁ……!すみれちゃん、香蓮!景品がステージ上に並んでるよ!」
「あら本当……でも景品の数を見る限り、こんなに参加者がいたら早めにビンゴしないと欲しい物は手に入らないかもしれないわね……ってちょっと桜映!?」
「わぁっ、さえちーまって~!!」

 桜映の言葉に誘われて、同じくステージ上の景品を見つけた香蓮が繋いでいる手の力をほんの少しだけ緩めた瞬間、桜映は急にステージに向かって走り出した。
 今の桜映には誰の声も届かないらしく猪突猛進状態だ。
 すみれと香蓮は談笑する生徒達の間をすり抜けながら慌てて桜映の背中を追いかけた。

***

 2人が必死で桜映を追いかけ、辿り着いたのは予想通りステージ前であった。
 桜映は目をキラキラさせながら景品を眺め、「どれが良いかなぁ~」とまだ受付すらしていないのにビンゴした時にもらう景品を選んでいた。
 すみれと香蓮は顔を見合わせお互いくすりと笑い、桜映に声をかける。

「桜映、人が沢山いるのに急に走り出したら危ないでしょ」
「さえちー、先に受付しないと。もうすぐビンゴ大会始まっちゃうよ」
「あ、そうだね!えへへ、つい……ごめん……ね……」

 2人に謝罪しつつ景品から目を離そうとしたとその時、桜映の目は1つの景品で固まった。

「あ……あれ!!ね、ねえ……2人共みてみて!!」
「ちょ、ちょっと、さ、桜映、か、肩が痛いわ」
「さえちー?すみれちゃんガクガクしてるから、その辺でやめよう?」

 桜映がすみれの肩を持ち、前後に揺さぶりをかけながらステージ上の景品を指すも、すみれと香蓮はついていけていない。2人の様子に気付いた桜映は苦笑して手を止めた。

「あ、えへへ……ごめん!」
「もう、気を付けてよね」

 桜映が再度謝罪する姿を見てすみれと香蓮は顔を見合わせると、そっと苦笑交じりのため息を吐いた。

「で?桜映は何を見つけてそんなに興奮しているの?」
「あ、そうそう!そうだよ!あの景品見て!!」
「さえちー、指さしそのままにしててね?え~っと……あの、ピンク色のうさぎさん?」
「ちがうよ!うさぎのぬいぐるみも可愛いけど……それより横にある紙みて!」
「紙?うーんと、うさぎさんの隣にある紙……あ、わかった!遊園地のペアチケット!」
「ちーがーうー!その逆だよ~!!」

 香蓮が桜映の指先を目で辿って答えていくも、桜映は首をブンブンと横に振る。
 2人の掛け合いを見たすみれも香蓮の視線に合わせて桜映の求める物を探した

「桜映、もしかして……『ダンスを教えてあげる券』の事?」

 すみれの言葉に桜映はぱあっと花が開いたような笑顔を見せる。

「そう!それ!それだよ!すみれちゃん!!」
「あれ、東先生が出したって書いてあるわよ」
「あの券があれば、蒼牙のダンスも教えてもらったりできるのかなぁって!」
「なるほど~。さえちー、それでそんなに興奮してたんだね」
「うんっ!」

 3人が盛り上がっていると、後ろから人が現れる。

「やあ。春日さん、水川さん、芳野さん」
「「「あ、東先生」」」
「ダンスを教えてあげる券、いい案だろう?」
「はいっ!素敵な景品だと思います!」
「ビンゴ、がんばろうね、さえちー」
「うん!頑張ろうね!すみれちゃん、香蓮!」
「ええ、早めにビンゴできたら良いわね」

 咲也も加わり、4人で和やかに話をしていると、受付の方からスピーカーで開始の案内が流れ始める。

「おっと、ビンゴが始まるみたいだ。3人共頑張って!」
「「「ありがとうございます!」」」

 こうして長い長いビンゴ大会が始まったのであった……。

***

 ビンゴ大会が始まり、約1時間――。

 3人共リーチまではスムーズに来たのだが、中々ビンゴにならない。
 桜映に至ってはトリプルリーチまで来ている。ここまでくると才能である。
 すでに残る景品は桜映の求める、咲也手作りの『ダンスを教えてあげる券』のみとなり、興味の無い生徒は別の催しに移動してしまった。
 中々ビンゴの声も上がらない為、終了予定時間を.10分オーバーしている事を確認した生徒会役員がマイクで案内を出す。

「次の催しで体育館を使用するため、あと1回でビンゴが出ても出なくても終了します!!」

 チャンスはあと1回。

(流石にそんなに都合よくビンゴ出来るはずがないよ……けど、神様!今日から暫くはいつも以上に良い子にするからお願いしますっ!!)

 桜映はビンゴカードが曲がりそうな程、両手に力をこめて強く願ったその時……。
 ――コロン

『3番です。ビンゴになった方、いらっしゃいましたらステージ横の受付まで来てください』

 司会者がマイクで番号を宣言し、参加者の様子を確認する。
 すみれと香蓮は自身のカードを見つめ、小さくため息をつきながら首を横に振った。

「桜映、協力できなくてごめんなさい……駄目だったわ」
「かれんもリーチが1つ増えただけだった~」

 2人が桜映の方を見ると、桜映はカードの1点を見つめ、小さく呟いた。

「……やった……」

 桜映の様子で察した2人は徐々に笑顔になる。

「え、もしかして、桜映……!」
「さえちー……!」
「うん……うん、やったよ、あたし。~~~~~ッビンゴ!!!」

 桜映が満面の笑顔で高らかにビンゴカードを掲げ、叫んだ。
 その目には薄らと涙が浮かんでいた。
 途中からあまりにもビンゴしない3人の様子を見守っていた周りの生徒も自分の事のように喜んで盛りあがり、謎の感動が生まれたのであった……。
 一部で拍手喝采の中、咲也ももらい泣きしそうになりながら、桜映が待ち望んだ景品を渡そうとした時、はたと気が付き思わず桜映のビンゴと同じ位の大きな声で叫んだ。

「……って、春日さんは券がなくても教えているじゃないか!!」
「えっ!?この券って、特別な技みたいなものを伝授してくれたりはしないんですか!?」
「普通にその名の通りダンスを教てあげる券だよ!!」

 ダンス部立ち上げにも苦労したように、そもそも“全力でダンスをしたい!”という生徒が少ない花護宮高校ではこの景品の需要が低すぎた。

「えー……じゃあ、あたし達の白熱した時間と感動は……」
「無駄だったみたい、ね」
「あはは、残念だったね、さえちー」
「ホントだよ~……」
「でも楽しかったから良いじゃない」
「……そうだね!文化祭を満喫したーって感じだよね!」
「うんうん!さえちーのおかげで楽しい時間を過ごせたよ」
「あたしの方こそありがとね!」
「ふふっ」

 かくして、桜映、すみれ、香蓮の3人は花護宮高校の文化祭2日目を楽しく終えた。
 ビンゴはこのような結果になったものの、良い思い出ができたのだ。

「『ダンスを教えてあげる券』……いいアイデアだと思ったんだけどな……」

 3人が楽しそうに笑いあう少し後ろの体育館の端っこで、咲也がどんよりとした空気を纏いながらため息を一つ吐き、ぽつりと呟く。
 このビンゴ大会で一番ショックの大きかった残念な人は他でもない咲也なのであった。


–END–


ページの一番上へ


前のページへ戻る