Trinity Tempo -トリニティテンポ- ストーリー



 翌日、桜映と香蓮は二人でダンスチームのメンバー勧誘をはじめた。
 朝は普段より早めに登校して声掛けとチラシ配りをし、休憩時間は校舎の掲示板にポスターの貼り出しと精力的に動き回った。
 しかしながら、ダンスチームに入りたいと言う生徒は現れなかった。
 それもそのはずで、過去の実績がない事もあり、花護宮高等学校でダンスをやりたいと考えている生徒は、入学の時点でまずいないのである。
 桜映と香蓮も実際に何人かの生徒と話してみたが、既に部活を決めている生徒は少なくなかった。

「うーん。誰も来ないねー」
「かれん、こんなに動いたの久し振りかも~」

 休憩時間、桜映と香蓮は階段の踊り場で状況を話し合っていた。

「でも、これで学校にある全部の掲示板にポスター貼れたかな?」
「うん!これからが本番だよね。1日も経ってないのにここまで進んだんだもん!きっと大丈夫だよ!」
「えへへ。そうだといいなぁ~。そうだ、さえちー。朝の勧誘でチラシ全部なくなっちゃったけど、どうしよっか?」
「あれ?もう無くなっちゃったの!?……あたし、数え間違えちゃったのかも……」
「ええ~?それじゃあどうするの?」
「ムムムムム……かくなる上は!」
「うえは?」
「いまから家に帰って、もう1回印刷してこよう!」
「それは無理だよ~、いまからじゃ授業に間に合わないってば」
「そこはほら。えーと、気合でなんとか!」
「さえちー、無茶言わないでよ~」

 二人が真剣に漫才のようなやり取りをしていると、後ろから少し疲れた雰囲気の男性の声が聞こえてきた。

「あー、春日さん。調子はどう?」

 香蓮が不思議そうな顔で振り向くのと同時に、声の主が分かった桜映が挨拶を返した。

「東先生!こんにちは!」
「こんにちは。隣の子は友達?」
「はい!あたしの友達の芳野香蓮ちゃんです。香蓮にもメンバーの勧誘を手伝ってもらってるんです。香蓮、この人が昨日話した東先生だよ」
「えっと、東先生はじめまして。1年2組の芳野香蓮です。先生、なんだか顔色が良くないみたいですけど……」
「東咲也です、よろしく。ちょっと疲れてて……。それで、勧誘の方の調子はどう?」
「いまはまだ……。でも、全部の掲示板にポスター貼りましたし、今日からは香蓮も手伝ってくれるので、きっと大丈夫だと思います!」
「そう、なら良かった。そう言えば芳野さんは?ダンスはしないの?」
「わたしは……。えっと」

 少しだけ俯いていた香蓮に代わって、桜映が先を答えた。

「香蓮はいま保留中なんです。ちゃんと考えてから決めたいって」
「そっか。焦らないでいいからね」
「は、はい」
 なぜか歯切れの悪い香蓮を疑問に思いながら、桜映は気になっていた事を咲也に尋ねた。

「先生、その荷物はなんなんですか?」

 咲也は両手に抱えていた荷物を広げながら答えた。

「あぁ、これね。実はこれを春日さんに渡そうと思って、探してたんだよ」
「私に?」

 はてと、桜映が首を傾げる。

「メンバー勧誘のチラシ、俺も作ってみたんだ。もし良かったら使ってよ」

 咲也から渡されたチラシは、既に桜映と香蓮が作ったものにアレンジを加えたもので、より見やすいものになっていた。

「わぁ……!ありがとうございます!実は、チラシを切らしちゃっててどうしようって話をしていたところなんです!」

 興奮気味に桜映が声を上げ、香蓮はその横で不思議そうに首を傾げていた。

「でも、さえちー、じゃなくて、春日さんと先生が話したのって昨日だよね?それなのにこんなにたくさん……。先生、大変だったんじゃないですか?」
「ハハハ……ちょっと疲れたけど大丈夫だよ。気にしないで。俺にはこれくらいしかできないんだから」
「先生……」
「おっと、もうこんな時間だ。休憩も終わりだから、二人とも授業には遅れないようにね。メンバーの勧誘、頑張ってな」
「はい!頑張ります!」

 桜映の元気な返事を聞いて、満足そうに咲也は階段を下りていった。その後ろ姿を見ながら桜映はポツリと呟いた。

「頑張らなきゃ」
「さえちー?」

 呟きを聞いた香蓮が横を見ると、初めて見る桜映の顔がそこにあった。
 笑顔ながらまっすぐに前を見据えた凛としたその表情が、香蓮にはとても眩しく映った。

「香蓮、あたし頑張る!どれだけ時間が掛かっても絶対にダンスチームを作る!」
「さえちー……。うん!香蓮も応援するし手伝うよ。一緒に頑張ろうね!」
「うん!じゃあ次は昼休みだね!っと、香蓮は昼休み、無理なんだよね?」
「そうなの。ごめんね、さえちー」
「なんで香蓮が謝るの~。あたしは大丈夫だから!友達と楽しんできてね!」
「ありがと、さえちー。放課後は手伝えるから。それじゃ、そろそろ教室戻ろっか」
「うん、また後でね」

 桜映が教室に入るのを見送りながら、香蓮は先程の桜映の表情を思い出していた。
 幼い頃からいつも一緒にいた桜映の、初めて見せたあの表情に香蓮は羨望を感じていた。
 分かりそうで分からないその理由に少しだけやきもきしながら、香蓮も自分の教室ヘと戻っていった。

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